「面接での見極めは難しい。」
そう感じている方は多いのではないでしょうか。
何を基準にどう判断すれば、入社後に活躍する人材を選べるのか。
面接を担当される方の多くは、この部分で悩んでいるようです。
そこで、今回は「高い精度で、活躍する人材を見極められる面接方法」について特集します。
その面接方法とは「コンピテンシーを見極める」手法です。
ビジネス・ブレークスルー大学の川上教授に「コンピテンシーとは何なのか、なぜ入社後に活躍する人材を見極めることにつながるのか、面接でコンピテンシーを見極めるにはどうしたらいいのか」について詳しくお話を聞かせていただきました。
主な著書に『自分を変える鍵はどこにあるか』(ダイヤモンド社) 『のめり込む力』(ダイヤモンド社) 『コンピテンシー面接マニュアル』(共著、弘文堂) 『できる人、採れてますか?』(共著、弘文堂) 『仕事中だけ「うつ」になる人たち―ストレス社会で生き残る 働き方とは』(日本経済新聞社) 『大前研一と考える営業学』(共著、ダイヤモンド社) 『20代で大切にしておきたいこと』(海竜社) など。
― 従来の面接の問題点を教えてください。
川上氏『従来の面接には、2つの問題点があります。1つ目は、「入社後の活躍と結びつかないポイントを見極めていること」です。従来の面接では、被面接者がいわゆる”優秀”かどうかを見極めていました。ここでいう「優秀さ」とは、良い大学を卒業している、専門的な知識を持っている、高い思考力を持っている、などのことです。
しかし、近年、「優秀さ」だけでは成果につながらないことがわかってきました。「優秀」な人材を採用したはずなのに、配属した部署から、「人事は現場で役に立つ人材を採用していない」と言われてしまうケースが、多くの企業で発生しているのです。
入社後に活躍する人材を見極めるためには、一般的に言われている「優秀さ」とは別の要素を見極めなければならないのです。』
― もうひとつの問題点を教えてください。
川上氏『面接での見極めのほとんどが 「直観」で行われていることです。
「なんとなくこの人いいな」という感じで合否が決まってしまう。何か対話をして、構造化された情報を取得しているわけではないし、無目的な質問をして、その中で被面接者が話している雰囲気や中身を聞いて直観的に判断しているだけなのです。
見極め精度を高めるために大切なことは「直観」による判断ではなく、「観察」による判断に切り替えていくことです。つまり、「事実を正確に観察することによる判断」のことです。自分の直観や過去のいくつかの経験だけに基づいて判断をするのではなく、むしろそれらを否定し、できるだけ多くの事実情報を集め、その事実情報だけに基づいてまず判断してみるということが、ここで言うところの「観察」による判断ということです。
ですので、面接ではまず、自分の主観を入れずに出来る限り多くの事実情報を集めることに徹しなければなりません。ひとつずつの情報に判断を入れるのではなく、まずは事実を集めることに集中し、十分なデータが集まってからそれらを総合して判断を行うことが大切なのです』
― 従来の面接の問題点がよくわかりました。では、まず、入社後に活躍する人材を見極めるには、いわゆる「優秀さ」ではなく、どういった部分を見極めればよいのでしょうか。
川上氏『面接では、コンピテンシーを見極めるようにしてください。コンピテンシーとは、ある成果を生み出すために、今現在の取り巻く状況において、自分が持つ能力的な資源(知識、スキル、経験など)を、どのような工夫を加えながら活用することが最も効果的かを考え、それを実行する力のことです。ポイントとしては、①単に知識を多く持っているだけでなく、それを確実に行動化していること。②その行動化においては、今生み出すべき成果を最も効果的に創出できるための工夫があること。この2点です。
今は、ただ持っている知識をその通り活用すればよいという仕事は減少しています。そのような仕事は、ITの進化により、人間がやらなくてもよい状況になっています。今、人間に求められるのは、知識や経験の豊富さよりも、それらを、成果創出に向けて効果的に活用できる力、つまりコンピテンシーなのです。』
― コンピテンシーについて、もう少し詳しく教えてください。
川上氏『コンピテンシーは、レベル、種類、頻度という形で分けることができます。細かく区切って観察することによって、より高い精度で見極めることができます。まず、レベルについてご説明します。コンピテンシーのレベルは5段階に分けられます。レベルの高いコンピテンシーを発揮できる人ほど、成果を生みやすいのです。各レベルの定義については、以下の図をご覧ください。
レベルを見極める際のポイントが2つあります。
1つ目は、レベル1-3とレベル4-5には、「成果創出を阻害するような困難な状況に置かれたとき、そこで行動が止まるのか止まらないのか」という違いがあることです。レベル3までの人は、困難な状況になったとき、そこで「この状況では、ここまでのことしかできない」と考えて、そこで行動が止まります。しかし、レベル4以上の人は、困難な状況でも、何とかそれを打ち破る方法がないかと考え、さらに行動を続けようとします。
先ほども説明しました通り、これからは難易度の高い仕事が多くなってきます。当然、日常的に困難な状況にさらされるケースが増えるはずです。その度にそこで足踏みをしていては、成果を生むことは難しいでしょう。常にその状況を打ち破ろうとする傾向を持っていることは、必須であると言えます。
2つ目は、入社後のレベルアップはそれなりの教育投資が必要になるということです。コンピテンシーのレベルは、本人のかなり本質的な特徴です。「当たり前にやるべきことを、確実に実行することが自分の役割だ」と思っている人の考えを、「独自の工夫を加えながら、困難な状況を打ち破ることが仕事だ」と変えさせるのは、とても大変です。そうであれば、やはり入社前から、既にレベル4を発揮している人を採用するほうが、その後の育成効率は格段に高いと考えられます。』
― コンピテンシーの種類について教えてください。
川上氏『コンピテンシーの種類としては、発揮の方向性(どんな成果を目指して発揮するのか)で分類するやり方と、行動そのもののパターンで分類する方法があります。発揮の方向性としては、例えば以下のような分類ができます。
採用後にどのような成果を生み出してもらいたいかが明確で、そのためのアプローチ方法は、独自に工夫しながら、状況に応じて最適なものを発揮してもらえればよいというような場合には、こちらの分類が便利です。求められる方向性で柔軟にコンピテンシー発揮ができている人を採用すればよいのです。
一方で、行動パターンでの分類は、成果を生み出すために重要となる行動のパターンが決まっているような仕事での採用に使います。例えば以下のような分類があります。正確に細心の注意を払わないと成果につながらないという仕事の場合、そのような行動が確実に取られている事実があるかどうかを面接で確認します。特に、複雑で正確な判断が難しくなるような状況になっても、「自分なりの工夫で確実な確認ができているか?」というように、レベル4の発揮を中心に行動事実を収集していくようにします。
このように、求められる種類を明確にしておくと、面接内容を分析しやすくなり、採用後の成果につながるかどうかの予測精度は高まります。ただし、より重要なのはレベルのほうです。ひとつの種類を高いレベルで発揮できている人は、その後、他の種類も高いレベルで発揮できるように育てるのは容易です。逆に、どれだけ多くの種類を発揮できていても、全てレベル2という人のコンピテンシーレベルを高めることは困難です。』
― コンピテンシーを見極めるためには、どのような面接を行えばよいのでしょうか?
川上氏『そのためには、コンピテンシー面接という手法があります。この面接自体の考え方は極めてシンプルです。面接での質問は、従来のものから特に変えていただく必要はありません。例えば、「あなたの一番の強みは何ですか?」などの質問をしていただいて結構です。ただ、その質問に対して相手が答えてきた内容の中に、「本人が工夫を加えながら発揮した行動事実の事例」が含まれていなかった場合、必ずもうひとつの質問を加えるということです。その質問とは、「なぜ?」ではなく、「例えば?」になります。
図5のように、強みについて質問したときに、「リーダーシップです」という回答が返ってきたとします。この回答には、「いつどこでどのような効果的なリーダーシップ的行動をとったのか」という具体的な行動事実の事例は含まれていません。そのときに、「なぜ?」とは聞かないでください。そう聞いても、行動事実の話ではなく、その場で作った考えや意見が出てくるケースが多いからです。そうではなく、「例えば?」を聞いてください。「例えば、その強みであるリーダーシップを発揮した例を聞かせてください。いつ、どこで、誰に対して、どのような効果的なリーダーシップを発揮した事例がありますか?」というような質問です。
ただし、一度「例えば?」を聞いたからといって、必ず行動事実が伴った内容を回答してくるとは限りません。その時の結果や状況などを答えてくるケースもあります。その際は、もう一度、「その結果につなげるために、例えばどのようなアプローチをとったのか?」「その状況を解決するために、例えば、どんな工夫を加えた行動をとったのか?」などのように、行動事実の話が出てくるまで「例えば?」を聞いていくようにします。
このような質問をすることで、対象者が経験した色々な場面におけるコンピテンシー発揮の実例を数多く集めます。その集まった実例が、自社で求めるレベルや種類にどれだけ合致しているのか、あるいは、収集したコンピテンシー発揮の特徴が、自社で求める成果をどれだけ生み出すことにつながりそうかを判断するのです。』
― コンピテンシー面接のポイントがよく理解できました。実際の面接場面では、どのような手順で進めればよいのでしょうか?
川上氏『コンピテンシー面接では「こういう質問をこういう流れでやっていけばこういうコンピテンシーを見極められる」という固定的なパターンは、残念ながらありません。毎回同じ質問や同じ進め方では、行動事実が伴ったデータを集められないこともあります。原則としては、「例えば?」という質問を中心に、コンピテンシーとして発揮した行動事実を数多く確認していくことがポイントなのですが、実際の面接場面で、どのような質問をどう組み立てるかは、柔軟に判断する必要があります。
ただ、一般的な進め方の例としては以下のような流れになりますので、これを参考に進めてみてください。
ただし、もう一度言いますが、これはあくまでも基本パターンです。この流れにしたがって、行動事実が伴う事例の話につながらない場合は、対象者がそのような話をしてくれるように、柔軟に質問や流れを変えながら質問していくことが大切です。
つまり、コンピテンシー面接は、「行動事実が伴う事例を数多く集める」という成果を生み出すために、「対象者が話しているテーマや話し方の特徴などの面接状況」において、「今どのような質問を投げかけることが最も効果的か」を判断しながら進めるというように、面接官自身もコンピテンシーを発揮しながら進めることが求められるのです。ここが、コンピテンシー面接の最大の難しさです。ただ、何人かの面接を実際に経験してみると、自分なりに「このような場合は、こう質問すれば相手は行動事実を話してくれるようになる」というコツがつかめるようになりますので、是非チャレンジしてみてください。』
― 特に注意して見るべきコンピテンシーはあリますか?
川上氏『こちらも、「このコンピテンシーさえあれば、どの企業でも入社後の活躍が期待できる」、というものはありません。コンピテンシー要件の設定は、各社の状況に応じて独自に分析していただければと思います。
しかし、これからの時代においては、多くの企業で必要になる可能性の高いコンピテンシーは存在します。今回は、3つご紹介します。
1つめは、興味関心を持って仕事にのめり込む力です。これはエンゲージ力と呼べるものです。今までは、仕事は辛いものなので、成果を出すためには我慢し、耐えながら取り組む力が求められました。ところが、これからはただ我慢し、根性で進めて行けば成果につながるような仕事は減ってきます。より創造的な仕事が多くなるはずです。そうなると仕事への興味関心の高さと、それによるのめり込みの度合が、創造性の発揮には重要となります。
さらに、興味関心を持って取り組んだ場合、記憶力が通常の3倍から5倍程度に高まることは、例えば趣味の世界で興味を持ったことはあっという間に全て覚えてしまうという経験からも確実です。興味関心を持てば、これからの時代においてでも質の高い仕事を行うことができるのです。
2つめは、ひとつ目とも関係しますが、創造的思考です。これまでは、論理的思考が重視されていました。論理的思考とは、証明するための思考法であり、正解があることを前提としています。論理的に物事を考えられることは最低限必要なのですが、激変の時代に、正解は存在しません。正解がない中で「どうするのか?」を考え続けられる創造的思考が重要になるのです。仕事への興味関心を持ちのめり込む力があっても、その興味が正解を求めることに向かってしまうと、やはり成果にはつながりません。エンゲージ力に加えて、創造的に考えようとする力も重要な要素です。
3つめは、シナジーを生み出す力です。以前までは協調性が重視されていました。みんなが同じ考えを持ち、同じ行動を取れることが、組織の成果を最大化するために有効だったのです。しかし、これからは組織員同士がシナジーを生み、1+1を3にも4にもしていかなければ、厳しい競争には勝ち抜いていけません。また、自分と同じ考え、能力を持った人とよりは、むしろ異質性を持った相手とのほうが、より大きなシナジーが創出されます。異質性や多様性を受け入れる力も重要となります。
これらのコンピテンシーを持つ人材を採用することは、既存社員にも好影響を与えます。新時代の要件を持った人のマネージし、一緒に働くことで、既存の社員にも刺激になり、これらのコンピテンシーが自然と身についてくるからです。そのような社員を、どれだけ早く、より多く育てていけるかが、今後の企業の人材競争力を高める大きな鍵となるでしょう。』
今回は、活躍人材を見極める面接術についてお話を伺わせていただきました。
これまでの面接は、直観に頼って実施されており、客観的事実に基づいた判断は出来ていませんでした。今回の取材で、それが、入社後のミスマッチや早期離職に繋がる原因だということがわかりました。決して簡単なことではありませんが、入社後活躍を増やすためには、科学的な面接を志向し、取り組んでいくことが大切です。
昨今の採用を取り巻く環境を鑑みても、その重要性は増しています。求人倍率は増加を続けており、募集告知を行っても、期待通りの応募数が集まらないという企業も増えたのではないでしょうか。
こうした環境では、限られた応募者の中から、入社後に活躍する人材を見逃さずに採用することが求められます。そのためには、行動事実付きデータをもとにコンピテンシーを見極めるという、科学的な面接を実施することが効果的なのです。
今回の特集が、面接を科学的なものにするきっかけとなりましたら幸いです。