尾形教授に聞く!
中途採用者を「組織になじませる」3つのサポート

2023/07/27 UPDATE
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苦労して採用した中途社員たち。オリエンテーションや研修を綿密に行ない、期待を込めて現場に配属した。ところが、1年後。現場に確認してみると、活躍しているのは入社者の半分にも満たない数だった。期待ほどの成果を出せていないようだ。採用時には即戦力だと思っていたのに、、、なぜなのだろうか。

 上記のような悩みを持つ、経営者・人事の方は多いのではないでしょうか。

 中途採用者の組織適応研究の第一人者である尾形教授は、その原因の一つとして組織の中途採用者への支援不足を指摘しています。

『中途採用者は前職での経験を有している人材ですが、新しく入った会社についての理解や知識は乏しい状態です。成果を求める前に自社に馴染んでらうことが重要です。組織にこの観点が抜けていると中途採用者が活躍することは難しくなります。(尾形教授)』

 では、中途採用者を組織に馴染ませるために、組織側はどのような支援をすればよいのでしょうか?尾形教授に話を聞きました。


-尾形先生は中途採用者の活躍には、まず「組織になじませる」ことが大事とおっしゃっています。中途採用者を「組織になじませる」ためにはどうすればいいでしょうか?

尾形氏:『中途採用者を組織になじませるには、職場における「3つのサポート」が必要です。3つとは「人脈サポート・仕事サポート・メンタルサポート」です。職場全体でこれら3つの支援をしてほしいのですが、中心となるのは直属の上司だと思います。

 新卒採用者には指導係やメンターをつけてサポートすると思いますが、同じように、中途採用者も組織適応を支援する他者を必要としています。孤独になりがちな中途採用者のサポートは、近くにいる上司が最も適しています。経営者・人事は、中途採用者が上司から支援を得られているかをチェックすることが重要です。』

-ありがとうございます。「3つのサポート」と「上司の重要性」を理解しました。それでは、まず「人脈サポート」について教えてください。

尾形氏:『「人脈サポート」とは中途採用者の人的ネットワーク構築の支援を指します。私の研究では、中途採用者のほとんどが、組織への適応課題として人脈の乏しさを挙げました。仕事は個人の力だけではなく、他者との協働で達成されるものです。また、高いパフォーマンスを発揮するためには、多様な情報を入手したり、個別に協力を求める必要があります。そのため、広く、良質な人的ネットワークが不可欠です。

 しかし、中途採用者はこの人的ネットワークがほぼゼロの状態で入社します。これでいきなり成果を求めることは酷です。』

-人的ネットワーク構築のために、上司はどのような支援をするとよいでしょうか?

尾形氏:『私が最近、中途採用者を組織になじませる施策として様々な企業にお伝えしていることがあります。それは中途採用者の方に「部署外の人、5名を必ず紹介する」というものです。組織のタスクとして明示的に行ない、完了したら人事に報告をしてもらうように提案しています。もちろん、紹介する相手は、その中途採用の方の仕事と関係がある方々です。

 この人脈作りの役割は上司の方に行なっていただくのがベストだと思います。上司の方は、基本的にその方が行なう仕事を熟知しています。どんな人と繋げれば仕事の成果を出しやすいのかは当然ながら理解していますし、役職者のような影響力がある方から紹介をしてもらった方が最初は関係が作りやすいからです。10名は厳しいと思いますが、5名であればそこまで負担はかからないはずです。

 また、もちろん、日常的には他部署の社員とのコンタクトや他部署のサポートが必要になったときに、すぐにつなげてくれる存在となることが大切です。』

-次に「仕事サポート」について教えてください。

尾形氏:『仕事サポートとは、中途採用者の近くで仕事に取り組み、実務においてどのような課題に直面しているのかを把握する存在になることです。中途採用者の方は、例え前職で同様の職種だったとしても、「スキルや知識の習得」の壁にぶつかります。会社が異なれば、同じ職種であっても、仕事の進め方、重視する点、求められるスピードなど、多くの点で事情は異なります。また、その会社特有の暗黙的なルールの理解もしなければなりません。これはなかなか困難を伴います。

 更に、前職の成功体験のうち、現職で役に立たないものは、意識的に忘れ学び直す(アンラーニング)必要があります。何が必要で何を忘れるべきなのか。この部分に多くの中途採用者は戸惑います。」

-暗黙のルールの理解やアンラーニングなど中途採用者独特の課題に対して、上司がすべきことは何でしょうか?

尾形氏:『常に相談役となり、普段の仕事の支援をしてほしいと思います。当たり前ですが、入社直後は新しい仕事に関するノウハウや知識はほとんど持ち合わせていません。中途採用者が実務をスムーズにこなしていけるように、ぶつかっている課題にすぐに対応していくことが重要です。

 関わり方として、特に大切なのはフィードバックを怠らないことです。行動に対して何が良かったのか、改善点はどこなのかを伝えることは中途採用者であっても不可欠です。それによって、仕事のノウハウ・知識はもちろん、暗黙知の理解やアンラーニングするべきことも理解できていきます。また、常に支えられているという安心感にもつながります。』

-最後に「メンタルサポート」について教えてください。

尾形氏:『メンタルサポートとは、文字通りですが中途採用者の精神的な面を支えることです。中途採用者は、早期にパフォーマンスを発揮するものと捉えられ、いきなり責任の大きな仕事を与えられたりします。また、周囲の同僚からはお手並みを拝見される傾向にあります。こうした中途採用者固有の状況や心理現象は精神的プレッシャーに繋がります。』

-精神的プレッシャーを抱える中途採用者に対して、上司はどんな支援をすべきでしょうか?

尾形氏:『上司の方に行なってほしいことは、定期的な面談の実施です。日々の業務上での関わり方とは一歩ひいて、別の観点から対話をしてほしいと思います。すでに多くの企業で実施しているとは思いますが、中途採用者との面談で特に実施すべきことは、職務マッチングと精神的プレッシャーの確認をすることです。

 中途採用者の方は自分がどのような仕事に携わるのか、イメージを抱いて入社しています。そこに大きなギャップ(リアリティショック)があれば、不適応や早期離職を引き起こしてしまいます。仕事の内容のギャップについてはしっかりと聞いて、対応が必要であれば早期に行なった方がいいでしょう。また、周りからお手並み拝見されていかなど、過度なプレッシャーを感じていないか確認をすることが大切です。』

-ありがとうございます。「3つのサポート」についてよく理解することができました。ただ、上司の負担が非常に大きいのが気になります。

尾形氏:『おっしゃる通りすべてを上司一人でこなすことは大きな負担です。そのため、冒頭で話した通り、組織になじませる役割を必要なサポートを提供できる人たちで分担する「サポートシェアリング」という方法もあります。この方法は上司だけでなく、中途採用者本人にもメリットがあります。複数の方から支援してもらうことで、より高いサポート効果を得られるからです。

 どのサポートを誰が行うかによって、中途採用者に与える効果は変わってきます。例えば、仕事サポートはプロパー社員がすると効果的です。どのような課題に突き当たっているかを日々の仕事から把握することができますし、組織経験が長い分、課題解決に必要な知識やノウハウを多く有しているからです。

 メンタルサポートは中途採用者の先輩がすることが効果的です。中途採用者の気持ちを理解できるのは、やはり同じ立場で似たような課題や苦労を克服してきた人です。 

 このように、複数人のサポート担当を割り当てることは、中途採用者をより馴染みやすくすることにつながるのです。



 ただし、注意すべき点もあります。「誰をサポート担当に選ぶのか」は慎重に考えなければなりません。中途採用者は前職での経験、知識、スキルがあるので、仕事に対する持論を持ち合わせていることがあります。時に、サポート担当の助言を素直に受け入れ難く、それはサポートする側のストレスにもなります。単に「年齢が近いから」だけではなく、相性や適性、支援に対するモチベーションを見極めることが重要です。』

-尾形先生、ありがとうございました。

「中途採用者心理」の理解がカギ

 近年、日本企業の中途採用数は急激に増加しています。少子高齢化による労働力不足や急速に進展するデジタル化など、新卒採用だけで事業戦略を遂行する人材を確保することが難しくなってきていることが背景にあります。中途採用者を『組織になじませる力』は、今後の日本企業において必須の能力といえるでしょう。

 中途採用者を組織になじませるために、最も重要な役割を担うのが「上司」です。本文に記載がある通り、「人脈・仕事・メンタル」のサポートが求められます。ただ、その前提として必要なことは上司が「中途採用者の心理」を理解することでしょう。中途採用者はどのような不安を抱えているのか。何に困っているのか。このようなことの理解が活躍を促す上司とそうでない上司の違いに繋がっていくのではないでしょうか。

 しかし、配属先の上司は多忙です。上司ばかりに負担をかけては持続可能な体制が作れているとはいえません。上司をしっかりとサポートする体制を経営者・人事が作る必要があります。

 「中途採用者の課題とは何なのか。上司や現場は何をすべきか。このことを理解してもらう研修を上司と現場に開催することが効果的でしょう」と尾形教授は語ります。

 まずは人事側が中心となって中途採用者を組織に馴染ませる方法を学び、上司や現場に教授できるようにすることが大切といえるでしょう。中途採用者が活躍する職場環境は上司の努力だけで何とかなるものではありません。経営者・人事が部門と一体となって取り組んでいくことが求められます。

今回の特集が中途採用者の活躍に課題を抱える方の一助となればこれほど嬉しいことはありません。


執筆・編集:入社後活躍研究所 研究員 千葉純平

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