中途入社者が成果を出すためには、自身の仕事を改善するための有益なアドバイスが必要であることが解ります。また、仕事は他者との協働で成り立つものであるため、上司や同僚との良い関係性を作ることも重要です。自ら関係性を積極的に構築することがパフォーマンスを左右します。
質問内容
・「ミスが許されないというプレッシャーのかかる仕事だ」
・「仕事の目標達成へのプレッシャーが常にある」
ミスが許されないと感じたり、目標達成について高いプレッシャーを抱える中途入社者は貢献実感が低下してしまうことが解ります。中途入社者は新しい仕事のやり方を覚えたり、人間関係を構築したりしなければならず、適応まで時間がかかります。即戦力とみなし、要求レベルを上げすぎると貢献実感にネガティブな影響を与えることとなります。ここでも仕事の割り当てを考えることが重要であることが理解できます。
③「貢献実感」に影響を及ぼす要因に対するアンケート結果
好影響を及ぼす組織側の要因の中で、中途入社者が最も実感できていない施策は「転職先のRJP(39.5%)」。入社側の要因である「フィードバック探索行動」ができている人は48.5%。マイナス影響を及ぼす「精神的プレッシャー」を感じている中途入社者は56%という結果となりました。
まとめ
昨今、企業の中途採用計画数は増加し、社員構成における中途採用者の割合は増え続けています。中途入社者に活躍してもらい、「貢献実感」を得てもらう。そのために
必要な「組織側の施策」とは何かを知ることは、企業にとって非常に重要だと考えられます。
今回の調査では、入社から1年が経過した中途入社者の中で
「貢献実感」を得ている人は39.2%であることが解りました。中途入社者の活躍が重要なこれからの社会にとって、まだまだ改善の余地がある結果と言えるのではないでしょうか。
中途入社者の「貢献実感の向上」には、
「RJP」「コミュニケーション風土」「タスク重要性が有効」であることが明らかになりました。入社前にネガティブな面も含めたリアリティのある情報を提供しておくこと。入社後には、上司がコミュニケーションしやすい雰囲気を作り、仕事の意味や意義について定期的に話し合うこと。このようなことが、中途入社者の活躍につながっていくと考えられます。
中途入社者の
「フィードバック探索行動」も「貢献実感の向上」に有効であることが明らかになりました。これは中途入社者自身の行動ではありますが、その行動を促進させるような組織的な働きかけをすることが重要だと考えられます。コミュニケーション頻度を増やして、話しかけやすい雰囲気を作る。仕事の自律性を高め、フィードバックを求めざるを得ない仕事の任せ方をする。こういったことが考えられます。
「精神的プレッシャー」はマイナスの影響であることが解りました。当たり前ですが、仕事には求められる成果があります。プレッシャーは付き物です。しかし、中途入社者は早期に成果を出そうと焦っていますし、周りからも即戦力と見られがちです。そのような中で、中途入社者にプレッシャーを感じさせることは貢献実感に悪影響を与えます。まずは中途入社者に精神的安心感を与えられるようにすることが重要です。
「貢献実感の向上」に好影響を与える施策の中で、最も中途入社者に知覚されていないのは「RJP」でした。売り手市場の中でネガティブな面を伝えづらいことは多いに想定できます。しかし、
「RJP」を実施しなければ、入社後のパフォーマンスが下がることが今回の調査でも明らかになりました。企業にはぜひ実施していただきたいと思います。
今回の調査が少しでも参考になりましたら幸いです。
尾形教授からのコメント
PROFILE
尾形 真実哉(おがた まみや)氏
甲南大学 経営学部 教授
1977年 宮城県生まれ。専門は組織行動論、経営組織論。研究テーマとしては、若手社員の組織社会化や中途採用者の組織再社会化、人材育成、特に育成型リーダーの育成など。単著に『若年就業者の組織適応:リアリティ・ショックからの成長』(白桃書房)、共著に『人材開発研究大全』(東京大学出版会)、『日本のキャリア研究:組織人のキャリア・ダイナミクス』(白桃書房)、『経営行動科学ハンドブック』(中央経済社)、『入門組織行動論第2版』(中央経済社)など。
少子化によって労働生産人口が減っていくにもかかわらず、生産量は変わらない、あるいはそれ以上が求められている状況において、いかに人材を確保していくのか重要な組織課題となるでしょう。そのような中で、人材確保の重要な手段の1つが中途採用になります。近年の我が国における労働市場を見ると、
企業にとって中途採用は有効な人材確保の手段であり、その需要は今後益々高まっていくと考えられます。だからこそ、
中途入社者をいかに組織に適応させるかは重要なテーマと言えます。
今回の調査報告は、中途入社者530名への質問票調査を実施し、統計的に分析したもので、「貢献実感」に影響を及ぼす要因を解明しています。中途採用者は、即戦力として採用されるため、
自分自身が戦力として会社や職場に貢献できているという貢献実感は、組織適応を測定する重要な指標と言えます。しかしながら、記述統計の結果からは、貢献実感を得られている中途入社者は39.2%であり、少ないと言えるでしょう。中途入社者が貢献実感を得られるのは、1年以上の時間を有するということが理解できるかもしれません。
そこで中途入社者の貢献実感に影響を及ぼすものは何かを理解することは有意義です。分析の結果、中途入社者の貢献実感に影響を及ぼす要因として、中途入社者自身の行動ももちろん重要ですが、それ以上に
組織や職場の上司の役割が重要であることが理解できました。仕事に関する正確な事前情報を提供するRJPは人事の役割ですし、重要なタスクを割り当てることや職場のコミュニケーション風土を醸成するのは、上司の役割が多大です。さらに、
人事部員や上司が中途入社者の精神的プレッシャーを緩和するサポーターの役割を果たすことも重要でしょう。中途入社者に期待通りのパフォーマンスを発揮してもらうためには、人事部や職場の上司の役割は重要です。
調査概要
■調査方法:webを使用したアンケート
■調査対象:中途入社から1年が経過した方
■有効回答数:530名
■調査期間:2019年6月30日~9月9日
<回答者の属性>