入社後の活躍へ向けて、採用時にできるコト
「転職者と採用実務者への調査」分析から探る、その処方箋

2016/11/17 UPDATE
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「やっと採用できた人材がすぐに辞めてしまう」
「苦労して採用したにも関わらず、思ったほど活躍してくれない」

こうした声は昔からよく聞かれるが、採用自体が難しい昨今では、より切実な問題であろう。早期離職や業績低迷の大きな原因の一つは採用時のミスマッチであると考えられている。

そこで、入社後活躍研究所が行なった「転職者の入社後に関する調査」から、企業が入社後活躍のために採用時にできるコトとは何かを考察したい。

「入社前の期待とのギャップ」が転職者に与える影響。

まず、「入社前と入社後の情報ギャップ」が転職者に与える影響について注目してみたい。

転職時の入社前と入社後の情報ギャップは、入社後のパフォーマンスに大きな影響を与える。採用の現場に関わる方であれば、リアリティをもって体感している事の1つであろう。しかし、その影響を定量的に把握をすることはあまりされてこなかった。そこで、今回の調査からその影響をみていこう。

■調査対象: マクロミルモニタ 20代、30代男女
※直近3年以内に「転職サイト」または「転職エージェント」を利用して正社員として転職した方
※転職後、現在もその転職先で就業している方
■調査地域: 全国
■調査方法: インターネットリサーチ
■調査時期: 2016年2月26日(金)~2月29日(月)
■有効回答数:927サンプル
転職者の4人に1人が、入社した会社に「期待を下回る」と回答

Q:転職して入社した企業は、当初の期待と比べて実際に入社して総合的にどのように感じましたか?

転職者の入社した会社に対するイメージや期待の変化について確認をする。

調査結果では、入社前の期待を「やや下回る」と「大きく下回る」の合計が、25.5%となり、4人に1人が「期待を下回る」と感じていた。では、「入社後ギャップ」は転職者の入社後の満足度・定着度・活躍度にどういった影響を与えているのだろうか。

「期待通り以上」であれば、「満足度」や「継続意向」、「貢献度」も高まる傾向

入社後キャップが与える影響を考察するために、転職者の「期待ギャップ」ごとの「満足度」「継続意向」「貢献度」についての調査結果を確認したい。

入社前の期待とのギャップが「期待通り」以上であると「満足度」「継続意向」「貢献度」が高まる傾向が見て取れる。逆に「期待をやや下回る」「期待を大きく下回る」と回答している転職者は、「満足度」「継続意向」「貢献度」ともに低いという結果が出た。「転職者の入社前の期待が裏切られる」ことは早期離職の大きな引き金となるようだ。

せっかく入社した社員が早期離職してしまうと企業にとってダメージが大きい。このギャップを少なくすることは企業にとって不可欠といえるだろう。

では、入社者はどのようなことをギャップと感じやすいのだろうか。

「社風」「社員」「昇給・賞与」が入社後ギャップへの影響が大きい

下記の図は「各項目が入社後に入社前の期待とどの程度合致していたか」を縦軸に置き、横軸に「各項目が総合期待ギャップにどの程度影響しているのか」を置いてプロットしたものだ。

この図で注目したい点は赤丸の部分だ。期待合致度が低く、かつ総合期待ギャップへの影響が大きい項目である。ここが、入社後に発覚して転職者の期待や意欲を大きく下げる要因となる。

「社風」「社員のクオリティ」「昇給・賞与(ボーナス)」は特に注意をして募集・選抜時に出来る限り現実的な情報を伝えなければならないことがわかる。

この3項目を入社前に伝えることは企業の手間が増えることになる。さらに、入社後活躍を考えれば、社内見学や現場社員との顔合わせ、昇給・賞与の実態の正確な提示が有効であると言えそうだ。

採用実務者に聞いた転職者の活躍・定着を妨げる原因

次に「転職者の入社後に関する調査」から「採用実務者に聞いた転職者の活躍・定着を妨げる要因」に注目したい。これまでは転職者への調査データを見てきたが、企業側からの視点でも考えていきたい。

■調査対象:マクロミルモニタ 20~69歳の男女で、下記すべてに該当する方
―公務員を除く、一般企業に勤めている
―「選定や選考の決裁権があり、業務・作業自体を担当している」または「決裁権はないが、業務を担当している」
―1年以内に転職サイトまたはエージェントを使用して正社員の中途採用を実施した
―入社後の中途採用社員の在籍状況や勤務状況ついて、ある程度把握している
■調査地域: 全国
■調査方法: インターネットリサーチ
■調査時期: 2016年2月26日(金)~2月29日(月)
■有効回答数:927サンプル
中途入社者の活躍・定着を阻害しているもの

中途入社者の活躍・定着を阻害している要因は何なのだろうか。

中途入社者が活躍・定着しなかった要因の中でも、「給与・賞与、休日休暇、福利厚生、職場の物理的環境(立地、作業空間、設備、備品等)」といった「衛生要因」についての不満に関して確認する。

上位は「給与に不満があった」19.1%、「残業が多かった」15.5%、「労働条件(ノルマ等)の厳しさに不満があった」15.0%。

従業員規模別に見てみると、「10名以下」の企業では「社会保険、労働保険の適用に不満があった」9.3%、「深夜手当に不満があった」7.2%と、「11名以上」の企業とは違う項目が上位にランクイン。反対に残業やオフィス環境についての不満は非常に低い。「501名以上」の企業では、ほとんどのポイントが平均を上回り、中途入社者が衛生要因に不満を抱えやすいことがわかる。

続いて、中途入社者が活躍・定着しなかった要因の中でも、「職場の人間関係」「仕事それ自体による自己効力感」「共感できる社会性」といった、仕事へのやる気を増大させる要因と言われる「動機づけ要因」についての不満に関して確認したい。

活躍・定着を妨げる要因の上位は「職務内容とのミスマッチ」27.5%、「職場の雰囲気への不満」22.1%。続いて、「事業内容が合わなかった」21.5%、「職種が合わなかった」17.7%となった。

従業員規模別では、「50名以下」の企業は、全体で上位に上がっていた職務内容や職種のミスマッチは非常に低い傾向にある。「101~500名」の企業は「事業内容が合わなかった」29.2%、「社風に不満があった」21.5%のポイントが高い傾向にあることがわかった。

活躍・定着を阻害しているものは「入社前にはわかりづらい部分」

企業側が考える中途入社者が活躍・定着しなかった要因。「衛生要因」「動機づけ要因」ともに上位は、入社前にはわかりづらい部分が挙げられている。

転職サイト、エージェント経由で伝えているという思い込みや、自社のことを理解しているだろう、勉強してきてくれているだろうと思う企業が多いが、「実は伝わっていなかった…」という事象が多々起きる。会社のイメージや商品のブランド力があり、複数事業を運営するような大手企業ほど、転職者は一面しか見ていない可能性があり、勘違いも起きやすい。逆に単一事業の中小企業の方が、イメージにぶれがないことも上記調査から見て取れる。

入社後のギャップを低減させるために、事前に体験入社を勧める企業もある。そこまではできなくとも選考段階を進むごとに、転職者の認識と自社の認識が合っているか、すりあわせる努力は入社後活躍を考える上で欠かせない。

まとめ

「転職者」、「採用実務者」の両データから、企業が採用時に出来ることを考えてきた。

転職者への調査からは「社風」「社員のクオリティ」「昇給・賞与(ボーナス)」が入社後ギャップに与える影響が大きいことが分かった。採用実務者への調査からは「給与・残業の多さ・労働条件(ノルマ等)の厳しさ・職場の雰囲気への不満」、「職務内容・事業内容・職種へのミスマッチ」が活躍・定着を阻害する要因だということが分かった。

この結果から、転職者が入社前に聞きづらい部分や気付かない部分にこそ、入社後活躍の鍵があることが明らかになった。つまり、企業に求められることは「積極的な情報開示の姿勢」だ。手間を惜しまずに転職者とのすり合わせをすることをオススメしたい。今回の考察を活かし、自社の選考プロセスをチェックしていただきたい。

関連記事